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広島高等裁判所 昭和51年(う)55号 判決

被告人 佐藤英輝 外三名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人佐藤英輝の弁護人満田清四郎作成名義、被告人千葉一秀の弁護人高井昭美、同末永汎本連名作成名義、被告人蔵増学の弁護人高井昭美作成名義、被告人山本和彦の弁護人井貫武亮作成名義の各控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、広島高等検察庁検察官検事山本視叙作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、これらをここに引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

被告人山本和彦の弁護人の控訴趣意第一(事実誤認の主張)について。

所論は、原判示第四の事実について、被告人山本は、植松君子がたまたま山口市湯田の友人の同棲先(作間方)に遊びに行つた際に遭遇したにすぎないにもかかわらず、「被告人山本が被告人蔵増をして同女を津和野町から山口市内に連れ出させた」と認定した原判決は事実を誤認したものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

そこで記録を調査して検討するに、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、原判示第四の事実は所論の点をも含めて優にこれを肯認することができる。被告人山本の司法警察員に対する昭和五〇年四月三〇日付供述調書、被告人蔵増の司法警察員に対する同月三〇日付、検察官に対する同年五月二〇日付各供述調書によれば、被告人山本は、原判示第四の犯行に際し、その一週間位前「まわす女を世話せよ」といわれ、「今付合つている津和野の女を世話しよう」といつて当時交際していた植松君子を山田日出男らに対し強姦の相手として引渡そうと考え、犯行当日被告人蔵増に同女が津和野町から山口市内に引越して来るのでその手伝をしてくれと依頼し、被告人蔵増は自己の運転する自動車に同女を乗せて津和野町から山口市内の佐久間滝二の下宿先まで連れて行つたことが認められるのであるから、植松がたまたま山口市湯田の友人宅に遊びに行つた際に遭遇したものではない。右の事実について、被告人山本が起訴され、有罪とされたものでないとしても、これを原判決のように認定したからといつて事実を誤認したものということはできない。それゆえ原判決の認定は正当であつて、所論のような過誤は存しない。論旨は理由がない。

被告人千葉一秀の弁護人らの控訴趣意一(法令適用の誤りの主張)について。

所論は、原判示第七、第八の事実について、被告人らは強姦の目的で久保二美枝あるいは林紀久枝を偽計を用いて自動車に乗せて犯行現場まで走行しているが、自動車の運転行為を除いては同女らが車内から脱出することを困難ならしめる方法は講じておらず、自動車の運転行為自体は監禁行為ではなく、また同女らも犯行現場に連行されるまで被告人らの意図に全く気付かず降車も要求していないのであつて、被告人らの右のような行為は外形的、社会的に見て監禁行為と評価することはできず、監禁罪に該らないにもかかわらず、これを監禁罪に問擬した原判決は法令の解釈適用を誤ったものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

そこで記録を調査して検討するに、被告人らが久保二美枝あるいは林紀久枝を自動車に乗せて犯行現場に連行した際、被告人らは自動車を疾走させたほかには同女らが自動車から脱出するのを困難ならしめる方法を講じておらず、また同女らは被告人らの意図に全く気付かず、途中被告人らに対し降車せしめるよう求めたこともないことは所論のとおりであるけれども、およそ監禁罪にいわゆる監禁とは人をして一定の区域外に出ることを不可能またはいちじるしく困難ならしめることをいい、被監禁者が行動の自由を拘束されていれば足り、自己が監禁されていることを意識する必要はないと解するのが相当である。本件において被告人らは同女らを強姦する目的で偽計を用いて自動車に乗車させて疾走したものであり、自動車を疾走させることは、同女らをして容易に自動車から脱出することができないようにしてその自由を拘束するものであって、これは外形的にも社会的にも監禁行為と評価さるべきものであり、これを監禁の実行行為ということを妨げない。被告人らが被害者らの脱出を困難ならしめるような積極的な方法を講じていないとしても、また被害者らが被告人らの意図に気付かず降車を要求していなかったとしても、被告人らの行為が監禁罪に該当することは明らかであり、これを監禁罪に問擬したのは正当であって、原判決には所論のような過誤は存しない。論旨は理由がない。

被告人千葉一秀の弁護人らの控訴趣意二(訴訟手続の法令違反の主張)について。

所論は、原判決は被告人千葉に対する量刑の事情として、原判示第五の松田登美子に対する犯行の際の同被告人の行動を認定しこれを考慮すると同被告人の刑事責任は軽くない旨説示しているのであるが、同女に対する強姦事件について起訴されているのは山田日出男、山田幸男、蔵増学、品川健二、金子敏二の五名で、被告人千葉はこの件について起訴されていないのであり、他の被告人らの犯罪事実を立証するための証拠を被告人千葉の量刑の資料にすることは、同被告人の防禦権を侵害するのみならず、証拠の立証趣旨を逸脱して情状に関する事実を認定したものであって原判決には訴訟手続の法令違反があり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというにある。

そこで記録を調査して検討するに、原判決は被告人千葉に対する量刑の事情として、「他に第五の松田登美子の際、同被告人が親しくしていた被告人三木の妹の友達であることを知りながら、同女を強姦しようと考え、強姦現場に赴いたものの、同女が失神していたのを見て姦淫行為を思いとどまり、その後同女が警察へ申告しないように、同被告人自身が関与せず、他の者らが同女を強姦したものと装い被告人三木とともに謝罪し、その犯行の露見を妨げたこと」などを考慮すると、判示認定にかかる事件について単に追随したにとどまつたとは到底窺えず、同被告人の刑事責任は決して軽くない旨説示しているのであるが、原判示第五の松田登美子に対する強姦事件で起訴されているのは山田日出男、山田幸男、蔵増学、品川健二、金子敏二の五名(以下前記五名と称する)であつて、原審第四回公判期日において右事件が審理された際、裁判所は右事件に関係のない被告人千葉外一三名及び被告人三好茂雄について弁論を分離したうえ、結局前記五名の関係で右事件について証拠調べをしていることが認められる。してみると被告人千葉の関係で証拠調べされていない松田登美子に対する事件の証拠資料は、被告人千葉の被告事件についてはこれを別件の証拠資料と解すべきであつて、これを同被告人の関係で証拠資料とすることは許されない。しかるにこれを証拠資料として認定した事実を量刑の事情として考慮した原判決にはこの点において訴訟手続の法令違反があることはいうまでもない。しかしながら右は原判決が被告人千葉に対する量刑の事情として説示するところの一部であり、後記同被告人に対する量刑不当の主張に対し当裁判所が説示するとおり右の部分を除いても同被告人を懲役三年に処した原判決の量刑は相当と認められるのであるから、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。論旨は理由がない。

被告人佐藤英輝の弁護人の控訴趣意について。

所論は原判決の被告人佐藤に対する量刑を非難し、犯情に照らし同被告人に対し刑の執行を猶予せられたいというにある。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて所論の当否について検討するに、本件のうち被告人佐藤に関する事実関係は、原判決が第一一、第一二の一において認定判示するとおりであつて(ただし、第一二の一の事実中田原美智子とあるのは田原三智子の誤記と認める。)、一、被告人佐藤が、山口市内で知り合い、情交関係を結んだ林民代をいわゆる鷹グループの者に強姦させようと企て、山田日出男外一〇名と共謀して、同女を自己の乗用自動車助手席に乗せて同市駅前通り一丁目一番一号中村女子高校正門前付近路上から同市内の椹野川河川敷上までの約七・一五キロメートルの間を疾走し、途中同女が預けた腕時計の返還を求めるとともに家に帰して欲しいと要求したにもかかわらず、これを無視して走行し、その間同女が右自動車内から脱出することを不能にして不法に監禁し、他の者も他の自動車で右河川敷上に赴いたうえ、山田日出男が同女を右自動車から右河川敷上に引きずり降ろして同所付近に駐車中の品川の自動車助手席に押し込み、同車内において助手席もろとも同女を押し倒して押えつけ、被告人佐藤もこれに加つて共にその着衣を脱がすなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、その日の午後一〇時ごろから翌日の午前二時ごろまでの間強いて同女を姦淫し、二、その五日後山田日出男外七名と共に阿武の連れて来るであろう女性を強姦しようと相談して山口市内のボーリング場に集まり、阿武が田原三智子を自己の自動車に乗せて同所に来るや、同女を他に連行して強姦することを共謀し、同女を山田幸男の乗用自動車に乗せ同人が「家まで送つてやろう」と口実を設けて同所から同市内の国有林道上まで右自動車を疾走させ、途中異常に気付いた同女が「降ろして」というのもかまわず走行して、同女が右自動車内から脱出することを不能にして不法に監禁し、他の者は品川及び被告人佐藤の運転する自動車に分乗して同所に赴き、同所に駐車中の山田幸男の自動車内において、同人が同女に「おれのいうことを聞け、聞かんとただじゃすまんでよ」などと申し向けて脅迫し同女を助手席もろとも押し倒してその着衣を脱がすなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、その日の午後一〇時二〇分ごろから翌日の午前一時ごろまでの間被告人佐藤外八名が同女を強いて姦淫したという事案である。本件強姦事件は、いわゆる暴走族の仲間である鷹グループに加入していた若者を中心にして、仲間の者が面識のある女性を誘い出し、自動車を利用して集団でこれをいわゆる輪姦したものであり、原判示第一一の林民代に対する輪姦事件においては、被告人佐藤が昼間同女と知り合い情交関係を持ち、その後同女をいわゆる鷹グループの者に輪姦させるために提供したものであり、同判示第一二の一の田原三智子に対する輪姦事件においては同被告人も同女を姦淫しているのであつて犯情はまことに悪質である。このような本件各犯罪の性質、動機、態様、同被告人の果した役割、犯行回数などに照らすと、同被告人の責任は到底軽視することはできず、本件犯行の態様、同被告人が本件犯行に関与するに至つた事情、被害者林民代の過失、同被告人が現在の心境、生活態度、これまでさしたる前科のないこと、被害者らに慰籍の方法を講じてその宥恕を得ていること、共犯者との刑の権衡などについて所論が指摘する諸点を同被告人のため十分有利に斟酌してみても、同被告人を懲役三年(求刑懲役四年)に処した原判決の量刑はやむを得ないところであり、重きに失して不当であるとは考えられず、また本件が刑の執行を猶予すべき事案とは認められない。論旨は理由がない。

被告人千葉一秀弁護人らの控訴趣意三(量刑不当の主張)について。

所論は原判決の被告人千葉に対する量刑を非難し、犯情に照らし同被告人に対し刑の執行を猶予せられたいというにある。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて所論の当否について検討するに、本件のうち被告人千葉に関する事実関係は、原判決が第四、第七、第八において認定判示するとおりであつて、一、被告人千葉が、山田日出男外六名と共に、山本が誘い出して来た植松君子を人家のない所に連行して強姦することを共謀し、同女を被告人蔵増の運転する乗用車に乗せて人家のない山道に連行し、他の者も他の自動車で同所に赴き、同所に駐車中の被告人蔵増の自動車内で、山田日出男がいきなり同女に抱きつき、被告人千葉も加わつて抵抗する同女をその場に押えつけ、その下着を脱がすなどの暴行を加え、山田日出男が「顔に煙草の火をつけるぞ」と、岡田が「おれは合田組の者だ、ばたばたすると売り飛ばすぞ」とそれぞれ申し向けて脅迫し、同女を同車助手席に押し倒してその反抗を抑圧したうえ、その日午後一〇時ごろから翌日の午前一時ごろまでの間同女を強いて姦淫し、二、その約三ヶ月後の秋祭りの夜、山田日出男らと共に阿武郡むつみ村大字吉部上所在の吉部八幡宮に赴き、阿武が連れて来ていた久保二美枝を他に連行して強姦しようと企て共謀のうえ、同女を自己の乗用自動車に乗せて他の者と交替で運転し、約三キロメートルの間疾走して同女が右自動車から脱出することを不能にして不法に監禁し、走行している右自動車内において被告人千葉がいきなり同女の肩に手をかけて押え、更にその両手を押えつけ、山田日出男が平手で同女の顔面を殴打し、その着衣を脱がそうとするなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ強いて同女を姦淫しようとしたが、同女が「変なことをすると舌を噛んで死ぬ」などといつて激しく抵抗したため姦淫するに至らなかつた、三、その約二〇日後山田日出男外七名と共に、阿武の連れて来た林紀久枝を人気のない場所に連行して強姦しようと企て、共謀のうえ、同女を小前の乗用自動車に乗せ、山口駅前広場から山口市内の椹野川河川敷上まで右自動車を疾走させて、同女が右自動車内から脱出することを不能にして不法に監禁し、被告人千葉らは他の自動車に分乗して右河川敷上まで赴き、同所に駐車中の小前の自動車内において、山田日出男が同女に対し「やらせ、やらせんと売り飛ばすぞ」などと申し向けて脅迫し、同女を助手席の上に押し倒し、その下着を脱がすなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、その日の午後九時ごろから翌日の午前零時ごろまでの間同女を強いて姦淫したという事案である。被告人千葉は三回の犯行に関与しており、いずれも同被告人自身は相手の女性を姦淫していないが、姦淫行為に及ぼうとしたところ、女性の激しい抵抗に遭つたためまたは他の者が先に姦淫したことから女性の陰部が汚れていたことに不快を感じて諦めたもので、特に酌むべき情状とまで考えられず、犯情は悪質である。このような本件各犯罪の性質、動機、態様、同被告人の果した役割、犯行回数などに照らすと、同被告人の責任は到底軽視することはできず、同被告人が本件犯行に関与するに至つた事情、本件のうち一件は少年時代の犯行であること、被害者に対し慰藉の方法を講じ、その宥恕を得ていること、同被告人の現在の心境、生活態度、共犯者との刑の権衡など所論が指摘する諸点を同被告人のため十分有利に斟酌してみても、また前段同被告人の弁護人の控訴趣意二(訴訟手続の法令違反の主張)についての判断中の所論指摘部分を除いてみても同被告人を懲役三年(求刑懲役四年)に処した原判決の量刑はやむを得ないところであり、重きに失して不当であるとは考えられず、また本件が刑の執行を猶予すべき事案とも認められない。論旨は理由がない。

被告人蔵増学の弁護人の控訴趣意について。

所論は原判決の被告人蔵増に対する量刑を非難し、犯情に照らし同被告人に対し刑の執行を猶予せられたいというにある。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて所論の当否について検討するに、本件のうち被告人蔵増に関する事実関係は、原判決が第三の一、二、第四、第五、第六において認定判示するとおりであつて、一、被告人蔵増が、山田日出男外五名と木田タイルの寮の岡田の部屋で遊んでいた際、有吉を通じて顔見知りになつた西村君子と大谷幸子の両名を呼び出して強姦しようとの話が出たが、右部屋の隣室に居住する有吉が大谷を強姦することに反対したため、ひとまず西村だけを強姦することの謀議を遂げ、有吉が同女らを下宿から自己の居室に連行し、暫くして大谷のみを同女の下宿に送り帰すため連れ出し、あとに残つた西村に対し山田日出男、岡田がいきなりその背後から仰向けに引き倒し、その上から布団を被せ、被告人蔵増、同山本もこれに加つて同女を押えつけ、その下着を脱がすなどの暴行を加え、更に岡田が「おれは街のチンピラと訳が違うぞ」と申し向けて脅迫してその反抗を抑圧したうえ、その日の午後九時四〇分ごろから翌日の午前二時ごろまでの間強いて同女を姦淫し、右犯行の際、被告人山本、山田日出男、岡田らが西村のみを強姦すれば事件が発覚するおそれがあり、大谷も強姦しておけば同女らが犯行を申告することはないとして、大谷をも強姦することを共謀し、岡田が下宿に帰つていた同女に対し詐言を弄して自己の居室に連行し、暴行、脅迫を加えてその反抗を抑圧したうえ強姦し、これを察知した被告人蔵増が被告人山本らと意思相通じ共謀のうえ、強いて同女を姦淫し、二、その約五〇日後になされた強姦の事実は、前段被告人千葉の弁護人の控訴趣意三についての判断中一の事実と同一事案である。三、その約三ヶ月後、被告人蔵増は山田日出男外五名と共謀のうえ、松田登美子を強姦しようと企て、品川が同女を自己の乗用自動車に乗せて山口市内の椹野川河川敷に連行し被告人蔵増らも他の自動車で右河川敷上に赴き、同所に駐車中の品川の自動車内において山田日出男が同女に対し「やらせい、やらせんと川に叩き込んでやる」と申し向けて同女を助手席もろとも押し倒し、金子と共に抵抗する同女を押えつけ、その口にタオルを押し込み、その下着を脱がすなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえその日の午後一一時ごろから翌日の午前一時ごろまでの間強いて同女を姦淫し、四、その翌日ごろ外七名と共に阿武郡むつみ村の高佐八幡宮に赴き、秋祭りの見物に来た若い女性を誘い他に連行して強姦しようと相談のうえ、山田日出男が阿武に女性を世話するように依頼し、同人が長田真由美を連れて来るや同女を強姦することを共謀し山田日出男が同女を被告人蔵増運転の乗用自動車の後部座席に乗せ、同被告人が同所から同村内の山林林道までの約一一キロメートルの間右自動車を疾走させ、途中異常に気付いた同女が「降ろして下さい」というのも構わず走行して同女が右自動車内から脱出することを不能にして不法に監禁し、他の者も他の自動車に乗つて所同に至り、同所に駐車中の被告人蔵増の自動車内において、山田日出男が「服を脱げ、脱がんとコーラびんを突込むぞ」と申し向けて脅迫し、山田幸男がその下着を脱がすなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、その日午後一一時ごろから翌日の午前三時ごろまでの間に強いて同女を姦淫したという事案である。被告人蔵増は五回の犯行に関与し、うち二回は自己の自動車で被害者を犯行現場に連行して積極的に犯行に加担し、どの犯行でも相手の女性を姦淫しているのであつて犯情はまことに悪質といわざるを得ない。このような本件各犯罪の性質、動機、態様、同被告人の果した役割、犯行回数などに照らすと、同被告人の責任は軽視することはできず、同被告人が本件犯行に関与するに至つた事情、同被告人には本件までに非行歴はないこと、同被告人の現在の心境、生活態度、家庭の事情、被害者らに慰藉の方法を講じてその宥恕を得ていることなど所論が指摘する諸点を同被告人のため十分有利に斟酌してみても、同被告人を懲役四年(求刑懲役五年)に処した原判決の量刑はやむを得ないところであり、重きに失して不当であるとは考えられない。また本件が刑の執行を猶予すべき事案とも認められない。論旨は理由がない。

被告人山本和彦の弁護人の控訴趣意第二(量刑不当の主張)について。

所論は原判決の被告人山本に対する量刑を非難し、犯情に照らし同被告人に対し保護観察に付してでも刑の執行を猶予せられたいというにある。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて所論の当否について検討するに、本件のうち被告人山本に関する事実関係は、原判決が第三の一、二において認定判示するとおりであつて、前段被告人蔵増の弁護人の控訴趣意についての判断中一の事実と同一事案である。被告人山本は二回の犯行に関与し、積極的に犯行に加担しており、いずれも相手の女性を姦淫しているもので、犯情は悪質である。このような本件各犯罪の性質、動機、態様、同被告人の果した役割、犯行回数などに照らすと、同被告人の生活歴、現在の心境、生活態度、これまでさしたる前科のないこと、被害者らと示談を済ませてその宥恕を得ており、被害者から嘆願書が提出されていることなど所論が指摘する諸点を同被告人のため十分有利に斟酌してみても、同被告人を懲役三年(求刑懲役四年)に処した原判決の量刑はやむを得ないところであり、重きに失して不当であるとは考えられない。また本件が刑の執行を猶予すべき事案とも認められない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮脇辰雄 岡田勝一郎 横山武男)

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